農家インタビュー

今回は大阪の農家さん、キノシタファームの木下健司さんよりご紹介いただいた愛知県碧南市の鈴盛農園 鈴木啓之さんにインタビューしました。
農家になるきっかけから今思い描いているビジョンまで聞かせていただきました。

[2018年9月20日/鈴盛農園にて]

視察・インタビューした夢農人メンバー

倉橋 幸嗣(花)
岡田 直是(ニンジン 他)

生産している主な農作物

にんじん、玉ねぎ、さつまいも、ジャガイモ、里芋

概要

所在地等

愛知県碧南市日進町3丁目65
鈴盛農園公式サイト

栽培について

鈴盛農園独自の栽培方法『塩農法
真冬の季節には糖度11度を超えるにんじんを供給している。

出荷・販売先

地元直売所、スーパー、生協、ネット販売、飲食店 など
加工品はドラッグストアや美術館など多岐にわたる

にんじんの時期は自社の倉庫で農園直売「ハタケマルシェ」を月曜日の午後13時~15時の2時間だけ開催。
ここにきたら必ず生産者がいて、その時一番いいものを買えることを約束します。

※詳しくは公式サイトをご覧ください。


サラリーマンから農家へ

元々はサラリーマンをしていました。いつかは自分で商売をしてみようと考えていました。
約10年前、結婚して2か月経った時に
農業は将来的に可能性やチャンスを秘めている。今この業界に入ったら面白いんじゃないか
と思いました。これから先、農業は外部の人間が参入することで、カッコよく、面白くなる業界だと。

その頃、農業には暗いニュースが多かったように思います。
そんな中で根拠なんてありませんでしたが、農業に可能性を感じました。


農業は祖母の影響?

祖母は農業をやっていましたが見ていただけで、手伝ったりは全くしていませんでした。実は畑にも行ったことがありません。

これからは農業の時代が来る、農業をやろう!
と思った時に、「そー言えばうちも農業やってたな」と思い出したくらい、
自分が多少なりとも農業と関わっていたことは忘れていました。

鈴盛農園の一番人気商品は「スウィートキャロットリリィ」です。
実は祖母の名前が鈴木リリでそこから命名しました。

※名前がハイカラな理由は祖母リリさんのお父さんがロサンゼルスで村の開祖となり、その村の産業として大規模イチゴ農園を始めたため、自分たちの子供にはアメリカでも日本でも通用する名前をと付けたから。



就農から5年、そして次の5年

新規就農してから5年間はしっかりと計画を立てていました。
何をして、どうなっていくというビジョンが見えていましたね。
幸いその計画通り、進めていくことができました。
危機感もほぼなく、今よりも身体も心も元気でした。
勢いだけで、乗り切れた感じですかね。

その先の5年は一度自分の農業を見直そうという時期に入った気がします。
今は言わば階段の踊り場にいる状態。考え中です。
もっと早く次の展開を考えた方が良かったなと少し反省しています。


全量直売だからできること

市場に求められるにんじんをつくるために必要な品種の特徴は
・害虫に強い
・形が良い、揃いがいい
・病気になりにくい


などが挙げられますが、うちのにんじんの品種の特徴は
・害虫に弱い
・揃いが悪い
・発芽率が低い


でも味がとても良いんです。

直売と市場出荷では求められる品種が根本的に違うんです。
形より味を重要視し、ライバルは自分自身だと定め去年の自分たちのにんじんよりも美味しいにんじんを作るように心がけています。

市場では価値の低い「規格外」の商品も、鈴盛農園では比較的安定した価格で販売しています。
これも全量直売だからできることです。
市場では規格外と呼ばれてしまうものでも、販売方法によっては市場のLサイズ特秀品という高グレードのものより高い値段で販売できます。
直売では規格を決めているのも自分。それが鈴盛基準の鈴盛規格。
ただ、何でもアリというわけではなく、良いものはいい、悪いものは悪いという線引きはしっかりあり、規格の違いをわかるようにして、あとは顧客にとっての良いものを選んでいただきます。


高糖度の秘密『塩農法』

栽培期間中に海水塩を希釈してにんじん畑に散布することで土壌中にミネラルを補充する鈴盛農園独自の栽培方法『塩農法』を行っています。
これをすることで糖度や食味がアップします。

きっかけは4Hクラブのプロジェクト発表でした。畑を細かく区分けし実験的に区画ごとに濃度や回数を変えて塩を散布をしました。
塩の他にも人間が口にしたら健康にいいと言われるもの、乳酸菌、海藻エキスなども一緒に散布しています。

本来、栽培中の野菜に塩をかけることはタブーです。
しかし、海岸沿いのトマトの糖度が上がったり、海水を浴びたネギの味や栄養価がアップした事例があります。
にんじんのデータを解析してもらい実際に栄養価や食味がアップしていることを確認しています。

にんじんは本来塩に強いものではないため、この農法では確かに規格外品が増えます。味と引き換えに犠牲にするものもあります。



美味しいのはもちろん、さらに先のにんじんへ

これからにんじんは高機能性にシフトしていこうと考えています。

今でも形よりも味重視ですが、感覚でなく数値を見てわかるもの、例えば抗酸化力が高いものなどを作っていきたいですね。
今年から機関に出して成分分析をしていく予定です。
特別な野菜ではなく、食卓で身近な野菜であるにんじんの機能性を上げることに意味があると思っています。
良薬口に苦しという言葉もありますが、にんじんに関してはそうではなく味と機能性は同じベクトルを向いています。
とても美味しいにんじん=栄養価も高いはずです。

そういう意味で、「美味しくて体にも良い、すごいにんじんがあるぞ」と世の中にインパクトを与えたいです。
民間治療で利用するために、にんじんが欲しいというお客様が多くいます。
飲みたい、飲ませたい人に、根拠としてのデータのあるにんじんを提供していきたいので、他との違いを数値として出すのは重要だと思います。

農業も世の中の情報を先取りしていく時代

いろんな業種の方から何年か先の世の中の流れを聞いたりして、特に農業については常にアンテナを立てています。
にんじんでこれから先もいけるところまではいきたいという思いがあるので、
そのためには時代にあった、ある意味先取りの精神も忘れていません。

選んでくれる人へ情報を提供する

消費者を見ていると、”ちゃんと選んでくれている”と思います。

みんな一番いいものを安く買いたいと思っている。
なんでもいいわ って買う人はいないんですね。損したくない。
そのために農家は選んでもらえる作物を作らないといけませんが、
わかりやすい評価基準である形や値段だけではなく、味や栄養価などを選択の基準にしてもらいたいので消費者に向けて、価値観を伝える努力をしていきたいです。
販売先ではできるだけPOP、チラシを付けて、情報と一緒にうちのにんじんを食べて欲しいと思っています。
テレビ取材、ホームページ、Facebookなどで発信もしています。
「情報の鮮度」も重要視し、アップデートを怠らないように心がけています。



日本の農業も毎日のアップデートが大事

僕たち農家が明日、明後日と少しずつ良い方に変わっていくことが、日本の農業の底上げになっていくと信じています。

実際に変わりたい、変わらなければならないと思っている若手農家はたくさんいます。
1つの農家が突出して頑張るのではなく、農家みんなが限界を決めずに、常に改善をすること、小さなことでも少しずつ変わっていくことが重要です。
日本の農業にはそれができる底力があると思います。

にんじんと言えば という存在になりたい

遠い目標ですが、北海道から沖縄までのにんじんの産地リレーを自社のネットワークで構築したいです。
ここに言えば常に新鮮なにんじんが安定して大量に供給されるという、にんじん専門のメーカーになりシェアをとれるようになりたいです。

一番の応援者、それはいつも買ってくれる消費者

これから冬はにんじんの時期になります。
うちのにんじんを食べたいな、と思ってくれた方は是非食べていただきたいですね。
直売農家である鈴盛農園を支えてくれているのは、いつもうちのにんじんを気に入って買ってくれている人たちです。
だからこそ、その人たちの役に立つ、美味しく、機能性の高いにんじんをつくります。

鈴木さんから夢農人へ応援メッセージ


最近、本当によく「夢農人」という名前を聞くようになりました。
今、愛知県の農業者団体といえば夢農人となってきているのではないでしょうか?
豊田だけではなく、愛知の団体になりつつあるように感じます。全国の農家と繋がろうとする意識も非常にいいですね。
理想の形って、それぞれきちんと独立しているけども、チームを組んでいるような関係性だと最近思っています。
そのチームの輪をどんどん拡げていって欲しいですね。

インタビュアー所感

あいにく雨の中の取材ということで、畑ではなく事務所の中をお借りしてのインタビューとなりました。

鈴木さん、イケメン!とにかく爽やかな印象でした。

考えがまとまっていて話がわかりやすかったです。
ブログなどのメディアを通じて常に発信し続けることを怠らず、講演にも積極的に出ているからこその自信・知識・会話力だと感じました。

これからの農業に対しても熱い思いを持っており、素直に応援したくなる農家さんです。
特に、自分だけ良くなればいいということではなく、農家全体のバージョンアップを望んでいるところが心に刺さりました。

美味しいのは当たり前、その先の機能性にんじんを作り、その根拠もデータとして見せるという完璧さ。
鈴盛農園さんはこれからも目が離せません。


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